いろはかるた(江戸系)

【い】
犬も歩けば棒に当たる:
(1)物事を行う者は、時に禍いにあうことのたとえ。
(2)やってみると思わぬ幸いにあうことのたとえ。
【ろ】
論より証拠:
物事は議論よりも証拠によって明らかになるということ。
【は】
花より団子:
(1)風流を解さないこと。
(2)名よりも実利を尊ぶこと。
【に】
憎まれっ子世にはばかる:
人に憎まれるような人間が却って世間で幅をきかすこと。
【ほ】
骨折り損のくたびれ儲け:
労力を費やしたのに効果がなく、疲れだけが残ること。
【へ】
屁をひって尻つぼめる:
失敗したあとで、取り繕ったり誤魔化したりするたとえ。
【と】
年寄りの冷水:
老人に不似合いな危ういことをするたとえ。また、老人が差し出た振る舞いをすることをいう。
【ち】
塵積もって山となる:
わずかな物も積もり重なれば高大なものとなることのたとえ。「塵も積もれば山となる」ともいう。
【り】
律儀者の子沢山:
品行方正な者は酒色にふけることがなく、家庭が円満なので、子宝に恵まれるということ。
他にも、家の外に楽しみをもたない真面目な人間だから、子供ばかり沢山つくって貧乏しているのだ、という冷ややかな意味もある。
【ぬ】
盗人の昼寝:
盗人が夜稼ぎのために昼寝をすること。どんな行為にもそれなりの理由はあるというたとえ。
【る】
瑠璃も玻璃も照らせば光る:
(1)つまらぬものの中に混じっていても、素質の優れたものは光を当てれば輝いてすぐに分かるということ。真に優れた人物は、どこにいても目立っているものだというたとえ。
(2)光の当て方によって、物事の真価や区別が分かるというたとえ。
「瑠璃も玻璃も磨けば光る」などともいう。
【を】
老いては子に従え:
年老いては何事も子に任せてこれに従えとの意。
【わ】
破(割)鍋に綴蓋:
破鍋にもそれに相当した綴蓋があるように、どんな人にもそれ相応の配偶者がいる。
また、配偶者は自分相応のものがよいというたとえ。
【か】
【よ】
葦の穴から天井を見る:
自分の狭い見識で、広い世界のことについて勝手な判断を下すこと。
【た】
旅は道連れ世は情け:
旅では道連れ同士が助け合い、世渡りでは互いに情をもって仲良くやるのがよい。
【れ】
良薬口に苦し:
病気によくきく薬は苦くて飲みにくい。身のためになる忠言が聞きづらいことにいう。
【そ】
総領の甚六:
長男・長女は大事に育てられたので、お人好しで、鈍いところや世事に疎いところがあるということ。
「総領」は家を継ぐ子、または長子。「甚六」は、ぼんやりした総領息子を嘲って言う語。
【つ】
月夜に釜を抜く:
明るい月夜に釜を盗まれる意から、(1)ひどく油断することのたとえ。
(2)油断してひどい目に遭うことのたとえ。
「月夜に釜を抜かれる」、「月夜に釜」ともいう。
【ね】
念には念を入れ:
十分に注意をした上で、さらに注意すること。
【な】
泣きっ面に蜂:
(泣き面を蜂が刺す意)不運の人にさらに苦痛や不幸が重なることにいう。
【ら】
楽あれば苦あり:
楽の後には苦しいことが来る。世の中は楽なことばかりではない。
【む】
無理が通れば道理ひっこむ:
無理な事が世に行われれば、道理にかなったことは行われなくなる。
【う】
嘘から出た真:
初めは嘘のつもりで言ったことが、偶然、真実となることにいう。
【ゐ】
芋の煮えたもご存知ない:
物事に無知または迂闊なことにいう。
多くは甘やかされて育った上流の子弟をからかって使う。
【の】
喉元過ぎれば熱さ忘れる:
苦しかったことも、過ぎ去れば全く忘れてしまうことのたとえ。
また、苦しい時には人を頼み、苦しさが去ればその恩を忘れることにいう。
【お】
鬼に金棒:
(1)ただでさえ勇猛な鬼に金棒を持たせる意から、強い上にもさらに強さが加わることのたとえ。
(2)これ以上はない力や知恵をそなえることのたとえ。
【く】
臭い物に蓋:
(1)不潔なものや人を不快にするものには、そうならないよう対処すべきであることのたとえ。
(2)悪事や醜聞などを、他人に知られないように一時的なてだてで隠すことのたとえ。
句の後に「をする」「をしろ」などをつけることもある。
【や】
安物買いの銭失い:
安い物を買って得したような気になっても、結局は損になるというたとえ。
【ま】
負けるが勝ち:
強いて争わず、相手に勝ちを譲るのが結局は勝利となるということ。
【け】
芸は身を助ける:
一芸に秀でていれば、それが生計の助けとなる。本来は、道楽として身につけた芸が、おちぶれたとき生計を立てるのに役立つ意。「芸は身を助く」ともいう。
因みに、生活が楽な時に道楽で身につけた芸が、おちぶれたため生活の助けとして役立っている不幸な境遇をいう諺を、「芸が身を助けるほどの不仕合わせ」という。
【ふ】
文はやりたし書く手は持たぬ:
(1)恋文をやりたいが字が書けず、人に頼むわけにもいかず気を揉む意。(遊里の)無筆な女が嘆く言葉。
(2)相手に気持ちを伝える方法がないことのたとえ。
「文をやるには書く手は持たぬ」、「文はやりたし」ともいう。
【こ】
子は三界の首っ枷:
親は子への愛情にひかされて一生苦労の絶え間がないことをいう。
三界とは、仏教でいう欲界・色界・無色界で、人間が輪廻転生する全ての世界を指す。
【え】
得手に帆をあげる:
(1)チャンスを逃さすにうまく利用することのたとえ。
(2)得意になって調子に乗ること。
「得手に帆」ともいう。
【て】
亭主の好きな赤烏帽子:
一家の主人の好むものは、たとえ笑われるような異様な物事でも、家族はこれに従うものであるとの意。
「烏帽子」は(烏の羽のように黒い帽子ということから)普通は黒塗りであるから、「赤烏帽子」とは変わったもののたとえとされる。
【あ】
頭隠して尻隠さず:
一部の悪事や欠点を隠して、全体をうまく隠したつもりでいる愚かさをいう。
【さ】
三べん回って煙草にしょ:
(夜回りで三度見回りをしてから休憩をとることから)急がず念を入れて事を行おうと心掛けること。
まずはやるべきことをやってから休憩にしようということ。
【き】
聞いて極楽見て地獄:
話に聞いては極楽のように思われるものも、実際を見れば地獄のようである意。聞くと見るとで大きな違いがあること。
【ゆ】
油断大敵:
油断は物事の失敗の原因となるから大きな敵である。
【め】
目の上の瘤:
自分よりも地位や実力が上で、とかく自分の活動に邪魔になるもののたとえ。
「目の上のたんこぶ」ともいう。
【み】
身から出た錆:
自分のした悪行のために自ら受ける苦しみや災禍。自業自得。
【し】
知らぬが仏:
知ればこそ腹も立つが、知らなければ仏のように平穏な境地でいられる。
転じて、当人だけが知らずに平気でいるさまをあわれみ、嘲っていう語。
【ゑ】
縁は異なもの:
男女の縁は不思議なものであるの意。
句に続けて「味なもの」ともいう。
【ひ】
貧乏暇なし:
(1)貧乏なために生活に追われ暇のないことのたとえ。
(2)多忙なことの言い訳、また、人からの評価に対して謙遜していう語。
【も】
門前の小僧習わぬ経を読む:
平生見聞きして慣れていれば、知らず知らずのうちにそれを学び知るようになるということ。
環境が人に強い影響を及ぼすことのたとえ。
【せ】
背に腹はかえられぬ:
(1)どちらかを選ばざるをえないときに、一方をやむなく犠牲にするというたとえ。
(2)差し迫ったことのためには、他を顧みるゆとりがないということ。
【す】
粋が身を食う:
花柳界や芸人社会の事情に通じて粋がることは、ついにその道に溺れて、身を滅ぼすこととなる。
【京】
京の夢大坂の夢:
夢のはなしをする前に唱えることば。
夢では色々なものが見られるということ、または、良い夢見を願うことか。

参考:『広辞苑』第五版(岩波書店)、時田昌瑞『岩波 いろはカルタ辞典』(岩波書店、2004年)