色の名前

 古代は、色の区別がアカ・クロ・シロ・アオのみ(※1)で、それぞれが明・暗・顕・漠を表していたという説があります(『広辞苑』第五版による)。これは佐竹昭広氏の論考(「古代日本語における色名の性格」『国語国文』二四巻六号)ですが、大野晋氏の論考(「日本語の色名の起源について」『エナジー』九巻三号)によって批判されています。
 大野晋氏の論考によれば、シロは不明であるが、アヲは藍、クロはクリ(涅=泥土)。アカはアカ(明=光)から発したのではないかといいます。
 実際の色相では、黒と白は対立するにしても、赤と対立するのは緑であり、青と対立するのは橙色です。言語の上では、クロとシロ、アカとアオ、そしてクロとアカとが対比されます(例:黒不浄、赤不浄など)。

 ※1……この四語だけは形容詞活用をもっています(「赤い」「黒い」「白い」「青い」と「い」を付けた形にできます。他の色を表す語では、「茶色い」「黄色い」のように、「色」を付けなければなりません)。また、「真っ赤」「真っ黒」「真っ白」「真っ青」といえるのも、この四語だけです。

色名の使われ方

アカ

 アカという語は、言語の上ではアオと対比されます。
 アカは「赤ん坊」「赤裸」など、顔の赤み、血や生命を表す色として用いられることが多いようです。対比されるアオは、「尻の青い」「青二才」「青々とした」などのことばからも分かるように「未熟さ」「若々しさ」を帯びた生命を表す色といえますが、それに対し、アカは「赤信号」のように「危険性」をも帯びた色でもあります。そしてアカは、「赤々と燃える」という表現もあるように、火の色も表しています。赤は生命の色であり、罪を焼き浄める火の色であり、日本では生命を育む「太陽」を表す色でもあります(国旗がその最たる例です)。藍と並ぶ最古の植物染料である茜から生まれた「茜色」は、「日」「昼」「照る」などにかかる枕詞でもあります。
 また、「火」の色という観点からすれば、アカは破壊の意味をも包含した色でもあります。

クロ

 白と黒といえば、「白」は純潔・潔白のイメージ、それに対して「黒」は不純・後ろ暗さのイメージがあります。
 実際、クロは黒・玄・などの色を表す語で、それらはすべて暗い色を指します。

シロ

 日本だけでなく諸外国の例から見てもほぼ例外なく、シロは清浄・純粋さの象徴として用いられています。
 シロは色相的な意味での「白」であり、「白酒」「白銀」など、実際の色ではなく、透明もしくは半透明なもの、澄んだもの、輝くものを表すことばでもあります。そしてシロも「アカ」同様、「白日」という言葉にあるように太陽を表す色でもあります。
 また、白い動物は何かしらの奇瑞、吉兆という考えもあります(白蛇など)。これは余談ですが、大和朝廷時代に孝徳天皇が白い雉を献上され、その鳥を吉兆として元号を白雉に改めたといいます。そしてこれを皮切りに白狐や白雀など白い動物が献上されたそうで、これが契機となって白い動物は吉兆だという考えが広まったのではないかといいます。記紀にも、倭建命(ヤマトタケルノミコト)が死後白鳥となり空へ飛び立ったという話や、垂仁天皇の皇子・誉津別が、生まれつき喋ることができなかったが、飛んでいる白鳥を見て声を出したという話が見られます。この2例から(この2例ではどちらも鳥となっていますが)、白い動物が何らかの不思議な力を持っているという考えがあったことが窺えます。

アオ

 アオは実際の青色以外に、青信号や「青々とした草」に言い表されるように〈緑色〉、青馬の表すように〈青みがかった灰色〉など、緑・藍色なども含まれ、更に白と黒の中間色(灰色)をも意味する語として用いられていました。
 現在でも、「顔が青くなる」「青ざめる」という語が用いられます。これらは血の気が引いたことを表す語で、実際の青色というよりは、通常 血が通っていて「赤い」顔から赤みが失われたことに対する語――「赤」と「青」とが対立している前提があって生まれた表現と考えられます。
 青色は果物の未熟な色である〈緑色〉を含む色なので、そこに持たされた意味に「未熟さ」があります。青二才、青臭いなどがその例です。「青侍」という語は官位が低い侍のことを指しますが、青色は未熟な色であり、同時に官位の低い色でもありました。深緑(青色として表される)は位階が六位、参内する侍の中では最下位でした。位階に関して見ると、七位が浅緑、八位が深縹、初位が浅縹で、いずれも青色系統の色です。

参考

 『広辞苑 第五版』(岩波書店)、『百科事典マイペディア』(日立システムアンドサービス)、北沢方邦『日本人の神話的思考』(講談社、1979年)、福田邦夫『すぐわかる日本の伝統色』(東京美術、2005年)