指切り

 約束を交わすとき、小指をからめて「♪指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ま~す、指切った」と言います。
 このときの「げんまん」とは……漢字で書くと拳万。つまり、「(約束を破ったら)一万回殴る」の意。「指切りげんまん……」は、約束を破ったら一万回殴られたうえ、針を千本も飲まされることを誓う行為となります。
 では、「指切り」はというと…… まさに「指を切る」。極道の指つめに近いものがあります(元は同じなのかも知れません)。
 この指切り、もともと遊女から始まったものといわれます。
 遊女には「心中立て」というものがありました。「心中」というと、現在は「集団で死ぬ」という意味がありますが、もともとは書いて字の如く「心の中」、即ち「自分の真心を証すこと」を意味し、それが近松門左衛門(江戸中期の浄瑠璃・歌舞伎脚本作家)の「心中物」がブームを引き起こしたことで、「心中」=「相対死」を意味するようになりました。近松門左衛門の「心中物」は悲恋が中心であり、報われない恋の果てに、自分達の心を証す(=心中の)最大の手段として「相対死」したことに因んでいます。
 指切りも「心中立て」の一つ。心中立てには何種類かありました。

心中立て

 ①誓紙を書く
 誓紙は起請文(きしょうもん)ともいいます。「愛を誓い合う紙」の意です。誓紙として用いられたのは熊野神社の「牛王宝院」を印刷したもので、これは烏の形を文字化した絵文字を印刷したものでした。指に針を刺して血を出し、その血で「○○様に惚れています」云々と書いて、烏の目を血で塗りつぶしたそうです。
 ②断髪
 髪は女の命……といわれていますが、昔は「髪には魂が宿る」と考えられていたので、切り落とした髪=魂の一部を相手に渡すということは、誓紙を書くことよりも重い心中立てでした。
 ③彫り物
 彫り物とはすなわち入れ墨。現代でもよく「○○命」と書いて、その「○○」が好きなことを表しますが、その起源がこれです。遊女は情人の名前を「○○命」のように彫りました。「○○に命を捧げます」という意味です。当時は「入れ黒子(いれぼくろ)」ともいいました。
 因みに、江戸時代、「彫り物」は「入れ墨」とは異なりました。「入れ墨」は前科者である証で、刑罰の一種としてあったものでした。
 ④爪はがし
 彫り物よりも重いのが爪をはがすこと。爪は回復不能なので相当重い心中立てです。
 ⑤指切り。指つめともいいます。左手の小指の第一関節の少し上を切り離したそうです。
 かつては遊女が「心中箱」というものを持っていたこともありました。この中に誓紙・髪・爪・指などを入れておき、客に渡すための箱でした。
 因みに、爪や指などを死体から剥ぎ取って売ったという話が『好色一代男』の中に見られます。本物の爪や指は本命にやり、大尽客(要するに金づる……)数人を喜ばせるために、死体から剥ぎ取った爪や指を買ったということになります。
 ⑥指切りより重いものが、現在意味するところの心中。これが愛を証す手段の究極法といえます。

参考

 『広辞苑 第五版』岩波書店、『百科事典マイペディア』(日立システムアンドサービス)